カルロ・トラヴァーシ、世界最難トラッドルートの一本、Magic Line(5.14c)を再登
最初のトライは2016年。そして6年後に、33才で第4登を遂に達成

Anthony Walsh climbing.com 訳=羽鎌田 学

2月27日、カルロ・トラヴァーシが、ヨセミテ国立公園のヴァーナル・フォール脇に潜む極細のシンクラック、Magic Line(5.14c)の第4登に成功した。Magic Lineの初登は1996年、ロン・カウクの手による。

カルロが初めてトライしたのは2016年のこと。当時彼はヨセミテにあるもう一本の5.14cトラッドルート、ベス・ロッデン初登のMeltdownをトライ中でもあった。後者のルートは、2年後の2018年に第2登を果たした。彼はMagic Lineトライ初年度にはかなりの成果を挙げ、計5日のトライ期間の最後には、終了点手前のハードムーブでフォールを喫するまで持ち込むことができた。

その後の5年間で3回、Magic Lineを再訪し、ヘイゼル・フィンドレイと一緒にトライを重ねたこともある。ヘイゼルのほうは2019年に第3登に成功。しかし彼にとっては、集中力、天候、ビレイヤーの3本柱がうまく揃うことなく、時が過ぎていった。

「数週間に渡って一緒にトライしてくれるパートナーが現れたのは、それはもう最高でしたよ」と、彼は電話の向こうで言った。今冬、トミー・コールドウェルにMagic Lineを一緒にやらないかと誘われた時、カルロは二つ返事で快諾したのだった。

 
 
 
 
 
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Photo by @christian_adam_

カルロは、「Magic Lineの、ひとりでやっていたら気が滅入ってしまいそうなくらい難解な手順を2人して今一度紐解いていったのです」と言う。「ルートは初めから終わりまで同じような感じで続いていきます。ただ、ギアを効かせるためには、適切なフットホールドに立ち適切な場所にセットしなければならないのです」と、説明する。彼は、ブラックダイヤモンドのキャメロットZ4、0番3本とカンプのボールナッツ2番2本を筆頭に、多数のマイクロカムを掻き集めた。

いやあ、ギアは正真正銘素晴らしいですよ。墜落しても抜けたことがなく、決して危険なルートではありませんでした」と、カルロは保証する。もちろん、それはギアを正確にセットできる技術があってのことだ。それがなくては、Magic Lineが危険なルートであることは確実だ。また、フットホールドは絶えず外傾していて、壁に張り付いているためには強力なボディテンションが要求される。体の張り、ホールドの保持に一瞬の隙が生まれた時には、それまでの着実なギアセットが瞬く間に水の泡になってしまい、そのスリップがギアをセットしている最中に起きれば、忽ちピンチに陥る。

ギアの適切なセットが重要であることがわかった今、目の前にあるのは実際に登らなくてはならない30mのライン。そのMagic Lineには、2つの異なるタイプの核心がある。第1の核心は、考えられる範囲で最悪のフットホールドを使った不確実なV11ボルダーパートで、その後は長くて5.13+ほどはある、フットホールドは当てにならないが指のかかりはポジティブなレイバックが続く。そしてほとんどノーハンドで休めるレストを挟んでの第2の核心は、ストレニュアスなV9ほどの難しさ。しかしそのレストについてカルロは「見た目ほどよくはないのです」と言う。「ちょっと微妙なレストでしたね。手はシェイクして休めることができても、その間ずっと足はスメアでかなり痛めつけられてしまうのです。頑丈な足を持つことがレッドポイントの際の核心でしたよ」

この点が、Magic Lineが同グレードのルートのなかで、異色の存在とされる所以なのだろう。ギアをセットする時に、腕がパンプアウトしてしまうわけでもなく、また絶大なフィンガーパワーが求められるわけでもない。「大抵はフットホールドが欠けて落ちてしまうのです」とも、彼は説明する。「それはそれで、かなりストレスを感じさせられるのですが、ここ10年から15年間、ヨセミテで登ってきて、どのフットホールドが信用できて、どのフットホールドが当てにならないかがある程度わかるようにはなっているのです」実際以前よりもフィジカル的には弱くなっているとはいえ、それでもこのルートをレッドポイントできると、彼は信じていたようだ。彼は、フィジカル的な衰えを、足への正確な荷重と、クライミングシューズの適切な選択でカバーしようとしたのである。彼が選んだのは、ファイブテンのわずかにダウントウしたハイアングル、エッジング性能と2ピースソールの柔軟さを兼ね備えた一足だ。「ソールが固いシューズはエッジングにはいいのですが、スメアを上手く効かせられなくなります。その反対に、柔らかいシューズではエッジングが難しくなってしまうのです。一日慣らし履きしたシューズが理想的でしたね。まだ、エッジがきれいに立っている一方で、ミッドソールが少し柔らかくなっているのです。一足を2、3日は効果的に使うことができました」と、彼は説明する。

ルートの状態も、核心の一部であった。「最近、冬以外は事実上ほとんど登ることができないのです」と、彼は言う。「少し前の2016年頃までは、ヨセミテの冬はあまりにも寒く、おまけに湿度も高くて、コンスタントに登ることができませんでした。でも、近年は、冬といってもハードなクライミングをするには、暑すぎるぐらいです」しかし今冬、ラッキーにも、2月下旬にヨセミテに寒気が訪れ、絶好の気温となった。それでも、その日、天気予報が告げるヨセミテ渓谷の気温摂氏20度は、フリクションに左右されるMagic Lineを登るには、暑すぎる気温の一歩手前。しかし、わずかな微風と40分の登りを要する標高のおかげで、岩場の気温は8度まで下がっていた。

Meltdownと比べてMagic Lineについてどのように考えるかとの問いに対して、カルロは共に素晴らしいルートだと答え、次のように付け加えた。

「確かに、Meltdownのほうが、前傾していて、核心も強烈でV12ぐらいはあるので、よりハードで難しさが続くルートなのかもしれません。でも、ここが面白いところで、両ルート共、非常にハードなのですが、理由が違うのです。いずれにしても、これからもヨセミテにあるハードルートに挑み続けることに興奮しています」

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