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ピオレドール2024 受賞チームが発表される
写真提供=Piolets d‘Or委員会、平出和也・中島健郎
文=和田 薫
日本時間の2024年11月1日、ピオレドール事務局は以下の3隊に対してピオレドールを授与すると発表した。授賞式は2024年12月8日から11日にかけて、イタリア北部のSAN MARTINO DI CASTROZZAで行なわれる予定である。
パキスタン、ティリチミール(7708m)北壁初登攀
The Secret Line 平出和也、中島健郎(日本)
ティリチミール北壁
二人は2019年にもティリチミールの登山を計画していたが、当時は地政学的な理由で入山許可が出ず(そのためラカポシに転進。翌20年にピオレドールを受賞した)、その後、コロナ禍を経て念願を果たした。ティリチミールはパキスタンのヒンドゥークシュ山域の最高峰としてその名が知られているが、北壁だけは試登もされたことがなかった。
北壁を正面から見ると、6500mの、まるで要塞のような岩壁に阻まれてその全容を把握することはできない。氷河地帯から直接北壁に取り付こうとすると、高度差1000mほどの不安定なアイスフォールに阻まれる。そこで二人は衛星写真を使い、北西稜のコル(6200m)から下部ティリチ氷河の5500m地点まで降りて北壁に取り付くラインを見つけ出した。
4600mのベースキャンプから2日かけて下部ティリチ氷河の北壁の取付にたどり着き、その後、3晩のビバークを経て2200mを登りきって登頂。ノーマルルートで下降した。
審査員は、7000m台後半の高い標高の山で長く複雑なルートの冒険的な登山をやりきったことをみごとなトラバースと評価した。また、既存の情報がほぼ存在しない状態で、隠れた北壁を探し出して登りきったことも併せて高く評価した。
コルから降りる際、200mのフィックスロープを使用したこと、そしてあいにく回収していないこと (注:撤退の際に登り返す可能性があることもあったため残置したと本人たちもコメントしていた。慎重な二人らしい判断と思われる) が欠点とも言えるが、全体のクライミングのスケールや完成度からいえば取るに足りない、というコメントも付記されている。
平出和也は今回が4回目の受賞、中島健郎は3回目の受賞となった。
(記録の詳細は『ROCK&SNOW』102号参照)
平出和也(右)と中島健郎
ネパール、ジャヌー(7710m)北壁(一部新ルート)と北西稜初登攀
Round trip ticket(2700m, M7 AI5+ A0)
マット・コーネル、ジャクソン・マーヴェル、アラン・ルソー(アメリカ)
ジャヌー北壁
「ヒマラヤで最難関の課題の一つ」といわれてきたジャヌー北壁を、3人のアメリカ人がアルパインスタイルにて、3回目の挑戦でみごとに登頂を果たした。
ジャヌー北壁のダイレクトルート自体は、2004年にロシア人チームが50日間をかけて約3400mのフィックスロープを張って登っており、当時大きな議論を呼んだ。
21年にマーヴェルとルソーが7200mまで到達して手応えを得た。22年にはマーヴェルとコーネルが6500mまで登ったが、強風と低温に撤退を余儀なくされた。そして23年、3人はアラスカのディッキー峰でトレーニングを兼ねて新ルートを開拓した後、再びインフレータブルG7ポータレッジと3人用の寝袋1つを携え、ジャヌーへ戻ってきた。
バットレスから300mのアイスフォール、その後は難度の高い1100mの急な傾斜の雪と氷のミックス帯が標高7100mまで続いた。7200mからは傾斜はさらにきつくなり、7300m地点での4日目の晩は完全なハンギングビバーク。翌日の7500m地点でのビバークを経て登頂。登りのルートをひたすら懸垂下降してベースキャンプに戻った。
登攀中からマーヴェルとルソーは手の指を凍傷しており、深刻な感染症の懸念からヘリコプターでの救助を要請。早急な対応が功を奏し、二人の指は先端が失われたが大事に至らず、3人は次の遠征を考え始めているという。
この記録に対して審査員は満場一致で授賞を決定。標高7000m台後半でのテクニカルなアルパインスタイルでのクライミングは、次のレベルに到達していると評価した。チームワーク、先見性のある戦略、技術的な能力や経験値が、登山用具の進化とあいまって成し遂げたこの登攀は、ヒマラヤ登山の新章の幕開けともいえ、次世代への刺激になるであろう。
(記録の詳細は『ROCK&SNOW』103号参照)
左から、マット・コーネル、アラン・ルソー、ジャクソン・マーヴェル
インド、フラット・トップ(6100m)北壁初登攀(西壁初下降)
Tomorrow is Another Day(1400m, ED, 5c A2 WI4 M6)
ユーゴ・ベガン、マティアス・グリビ、ナタン・モナール(スイス)
フラット・トップ北壁
インドのキシュトワールに位置するフラット・トップは、1980年に東稜が一度登られただけであった。この地域は、70~80年代は多くの入山者を迎えたものの、ジャム・カシミール州をめぐるインドとパキスタン間の紛争が激化したため、その後、外国人の入山が厳しく制限されていた。最近は状況が緩和しており、魅力的な未踏峰をめざすクライマーも増えてきた。
スイスの若い3人は10月3日、好天予報を頼りに登攀を開始。北壁の中央のラインを登り、途中から右の助稜にルートを拓いて北尾根の稜線に達した。核心部はこの右上する部分で、10月6日に登頂。その後、3人は未踏の西壁を15回の懸垂下降で下山した。
審査員は、過去40年間、人が訪れていないエリアの魅力的なピークに、エレガントで技術的にも難度の高いラインを引いたと評価。完璧なアルパインスタイルで未踏の北壁から登頂し、事故なく西壁を下山した点も評価された。
また、3隊のほかに、女性特別賞としてイタリアのニヴェス・メロイが選ばれた。ピオレドールは女性によるアルピニズムを推進するため、女性チームの登攀や女性がリーダーとなった男女混合チーム、または単独登攀を表彰することにしている。
そして今年の生涯功労賞は、スペインのホルディ・コロミナスに贈られると10月12日に発表されている。(参考:ピオレドールのウェブサイト、American Alpine Journal)
左から、ユーゴ・ベガン、マティアス・グリビ、ナタン・モナール
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