ヤコブ・シューベルト、フラタンゲルでProject Big初登

Steven Potter   climbing.com
訳=羽鎌田学

2023年9月20日、オーストリア人クライマー、ヤコブ・シューベルトが「キャリア最大のメンタルバトル」の末、ノルウェーのフラタンゲルにあるProject Bigを初登した。

彼はまだグレードについてコメントしていないが、少なくとも9b+(5.15c)はあると噂されており、ヤコブの高難度ルートを短期間で完登してきた実績を考えると、彼がもっと上のグレードをつけても不思議ではない。

この15年ほど、ヤコブ・シューベルトはリードの数々の国際大会を制覇してきた。

2007年にワールドカップでのキャリアをスタートさせて以来、彼は49個という驚異的な数の金メダルを獲得し、2011年、2012年、2013年、2018年のコンバインド(リード・ワールドカップとボルダー・ワールドカップの両成績を合算した順位)で年間優勝を果たし、4度のリード世界選手権と2度のコンバインド世界選手権でチャンピオンに輝き、東京オリンピックでは銅メダルを獲得した。

彼はまた外岩での活躍も目覚ましく、9b+(5.15c)のPerfecto Mundo、9b(5.15b)と9a+(5.15a)のルートを十数本、高難度ディープウォーター・ソロ、V15までの数多くのボルダー課題などで、その史上最大かつ最も印象的な履歴書を飾っている。

また2021年12月にヤコブは、クライミング史上最も印象的であると見なすクライミング・ツアーを実現した。それは、スペイン、シウラナへの9日間のツアーである。そのツアーで、彼はウィル・ボシ初登のKing Capellaを登り、それを9b+(5.15c)から9b(5.15b)にグレードダウン。アダム・オンドラ初登のLa Capellaを5トライ目で登り、9b(5.15b)から9a+(5.15a)にグレードダウン。やはりウィル・ボシ初登のLa Furia de Jabalíを3トライ目で登り、9b(5.15b)から9a+(5.15a)にグレードダウン。また、8c+/9a(5.14c/d)のJungle Speedをフラッシュし、同じグレードのLast Nightをウィル・ボシに続き第2登するなど、短期間で素晴らしい成果を挙げたのである。

Project Bigは、2013年にアダム・オンドラによってボルトが設置されたラインである。同じ年に、アダムは2017年に初登したSilence(9c、5.15d)にもボルトを打っている。しかしその後、昨年アダムとヤコブが一緒にこのラインにトライし始めるまで、初登のための大きな努力は払われていなかった。ヤコブはそれ以来、気まぐれなノルウェーの天候と闘いながら、最後の核心ムーブで何度も何度も落ちながら、計2ヵ月近くトライし続けた。驚くべきことに、ヤコブが一度の短期ツアーで目標のルートを完登できなかったのはこれが初めてだった。

Project Bigは、7a/7a+(5.11d)ほどの長いイントロで始まり、これがヤコブがルート上部でのロープの流れを良くするために2本目のロープに切り替えたところまで続く。これに7C+(V10)から8A(V11)のボルダームーブを含み、何ヵ所かまずまずだがそれなりに消耗するレストポイントがある中間パートが続く。次に、非常にハードなボルダームーブが最後を飾る、中身の濃いレジスタンス系のパートが続く。その最大の核心は、両手スローパーから左手をクリンプホールドへ飛ばすムーブで、これはルートの85番目のムーブとなっている。これにさらにハードなムーブがいくつか続き、その後20mほどのランナウトする8a/+(5.13b~c)のパートを登り、終了となる。

ヤコブは、核心ムーブに成功した瞬間、直ぐにそれが台無しになってしまうのではないかという恐れに取りつかれたと言う。

「今までのクライミングで今回ほど怖かったことはなかったです」と、彼は語る。

「核心を越えた後は、たかが8a(5.13b)かそれに近いことはわかっていても、同時に、そこで落ちたらすべてが無に帰することも明らかでした。ですから、足を滑らせたりするのがとても怖かったのです」

彼が恐れるのも、もっともなことであった。事実、上部のパートで、危うい場面が幾度かあった。まずは、左手で引き付けて右手を遠くのホールドに正確に飛ばさなければならないムーブで、左手で使っていたホールドが濡れていたせいで、危うく落ちそうになる。また、目に見えてひびが入っていたものの、それまで何度も使っていた突き出したホールドが割れた時もそうであった。彼は割れて手のひらの中に残った部分と壁のホールドの根元の部分を一緒に鷲掴みにして、なんとか耐えたのであった。「超緊張したぜ」と、彼は終了点にクリップし、叫んだ。

「今回のクライミングは、私のキャリアの中で最大の、ルートとのメンタルバトルでした」と、彼は後に語った。

「これほど一本のルートにトライを重ねたことはありません。実は、このルートは、私がこれまでにトライして、一度のツアーで完登できなかった最初のリードルートなのです。私はそれにほぼ2ヵ月間、トライし続けていたのです」

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